膝(ひざ)のお話

  今回は膝のお話です。膝は人体の中で最も大きな関節で、最も丈夫にできている関節です。 関節の中で「半月板」なんて粋な軟骨を持っているのは膝だけですし、また膝には「膝蓋骨」というこれも人体最大の種子骨があります。 これだけみても膝関節が特別扱いされていることが分かるでしょう。

  膝関節は関節の種類でいうと蝶番(ちょうつがい)関節になります。 膝関節の上方には股関節があって、上体を支える骨盤と繋がっています。 股関節は球関節で3軸自由に動くことができます。 ここで、図1のようなおもちゃを作って、上体を模擬した錘をぶん回してみましょう。 どこが最初に壊れるか分かりますよね。 蝶番の軸に垂直方向の力が加わると、蝶番は耐え切れずに簡単に壊れてしまいます。
  次に、もう1個球関節を追加して図2のようにしてぶん回してみましょう。 さっきよりは壊れにくくなったと思います。 追加した関節は足関節です。 足関節は距腿関節と距骨下関節の組み合わせで、実質球関節と同じ動きができる構造になっています。
  このように1方向にしか曲げられない膝関節の上下に3軸自在に動ける関節を組み合わせて、上体の自由な動きを可能にしているのです。

  とは言え、いろいろな方向から、ときには体重の何倍もの荷重がかかる状態を、全てきれいに逃がし切れるものではありません。 過大な荷重が加わったときに半月板損傷や靱帯断裂といった事故が起きてしまいます。 そういうときは専門の病院にお願いするしかないのですが、ここから先は日常生活の中で膝が痛むという場合についてお話します。

  膝関節は蝶番関節で1方向にしか曲げられませんと書きましたが、身体全体の滑らかな動きを可能にするため、実は横方向や旋回の動きも若干できるようになっています。 しかし、この動きを多用しすぎると膝関節に痛みが出てきます。 怪我をしていないのに膝に痛みが出るのは、「膝の使い方がおかしくなっていますよ」という身体からの警告だと考えてください。
  真直ぐに立って軽く膝を曲げてみましょう。 足幅は腰の幅にしてください。 そして上から見て自分の膝とつま先の方向とを比べてみてください。 つま先と膝が一致していれば問題ありません。 つま先に対して膝が外側か内側にずれている人は、膝の蝶番関節に普段から負担をかけていることになります。
  次に足を肩幅以上に開いて同じことをやってみてください。 このときは多くの人がつま先に対して膝が内側に入ってしまうでしょう。 特に素早い動きを求められるスポーツでは、母指球に体重が乗り易くするため膝を内側に入れる傾向があります。 但し、スクワットをこの状態でやると確実に膝を痛めます。

  普段の何気ない動作で常に膝が内側もしくは外側に曲がってしまうのは、その人の癖だと言ってしまえばそれまでですが、整体の視点からもう少し良く考えてみましょう。
  膝の向きを支配しているのは大腿の筋肉です。つまり大腿の内転筋と外転筋のバランスが崩れていると、膝が正しい方向に曲がってくれません(注)。 大腿筋のバランスが崩れる原因は幾つかあり、そこだけ調整すれば良いというものではありませんが、大腿筋のバランスが取れると普段の何気ない動作で与えている膝の負担を無くすことができます。 普段の動作による負担は常に負荷を与え続けますから、これを取り除くことが大切です。

(注) 内旋と外旋のバランスも重要ですが、トータル的な動きの結果として内旋や外旋が現れます。 「インナーマッスル(4)」参照。

  膝の痛みを訴えて整形外科に行くと、先ずレントゲンを撮られ、大腿骨と脛骨との隙間が少しでも狭いと「変形性膝関節症」という病名を付けられてしまいます。 そして痛み止めを処方され、最初は安静に次に筋力を付けなさいと言われます。 安静にするのは重要ですが、痛みが出たのは筋力不足ではなく、筋力のアンバランスのせいなのです。 普通の大人の腰回りよりも太い太腿(ふともも)を持つスポーツ選手でも膝の痛みで苦しんでいる人はいっぱいいます。 レントゲンで膝の隙間が全く無いと診断された方でも、普通に歩いておられます。
  最初に書いたように、膝は人体で最も丈夫な関節なのです。 ちょっとやそっとで、歩けなくなるほど壊れることはありません。