腰痛と腰のくびれ(2)

  数多い脊椎動物の中で、そして哺乳類の中でも腰椎の前湾があるのは人間だけです。
  先ずは鯨を見てみましょう。

鯨さんの骨格

  鯨は海の中を泳ぐのに腰椎の前湾は必要ありません。 海の中を3次元的に自由に行動する鯨の脊椎は大きな円弧を描くようにほぼ一直線に並んでいます。 お魚さんの骨も同じですね。
  次に四足歩行の動物を見てみましょう。犬さんとネコさんです。

犬の骨格模型(左)とネコの骨格模型(右)

 

  やっぱり腰椎の前湾はありませんね。 でも、ちょっと面白いことが分かります。 ネコさんの骨格模型に顕著に表現されていますが、頚椎に前湾が見られます。
  四足歩行をする動物は頭が前の方に飛び出していますので、頭を持ち上げるために首の後ろに強力な筋肉が必要になります。 そのため、頚椎を湾曲させてそこに筋肉の弦を張って頭を持ち上げているのですね。 人間が立ち上がるために腰椎の湾曲を作ったのと原理は同じです。 四足歩行に進化したときにこの工夫があったので、我々人類も立ち上がるとことができたのでしょうか。 (「腰痛のメカニズム(2)」参照) 首の後ろに筋肉を付けるために、胸椎の蕀突起(後ろの出っ張り)が大きく発達して、そこに筋肉が付着できるようになっています。 下の図はおウマさんの骨格を使って分かりやすく描いてみたものです。

馬の骨格模型

  人間も頭を支えるために、首の後ろに筋肉(脊柱起立筋の一部)を張って、腰と同じように骨の負担を軽くするために頚椎の前湾が残っています。 首の後ろの筋肉の力が無くなると、頭が前に倒れてしまいます。 電車で居眠りしている人を見るとよく分かりますよね。
  最近、’ストレート・ネック’と言って、頚椎の前湾が少ない人が多いそうです。 腰と同様、前湾が少ないと筋肉が頑張らないといけないので、首や肩が凝るという症状が出やすくなります。

  少し横道に逸れましたが、腰椎の話に戻りましょう。 四足歩行の動物も腰椎の前湾はありませんが、では二足歩行をする動物はどうでしょうか?
  先ずは鳥さんです。 ペンギンと鶏の骨格を示します。

ペンギン(左)と鶏(右)です

  ともに腰椎の前湾は見られません。 その代わり何と尾椎に前湾が見られます! 彼ら(彼女ら?)は、身体の重心の真下に足があって、頭とお尻でバランスをとって立っています。 お尻をピョコピョコ動かしやすいように尾椎が前湾しているのでしょうか(^^;)。

恐竜の骨格模型

  あと、二足歩行をする動物として恐竜がいます。 (正確には「いました」ですが) 上はお馴染みティラノサウルスの骨格模型ですが、やはり腰椎の前湾は見られませんね。
  実は、鳥類も爬虫類である恐竜も、脊椎で身体を直立させている訳ではないのです。 四足動物と同じように脊椎は水平方向の「梁」であって垂直方向の「柱」にはなっていません。 頭と尻尾で後脚の前後のバランスをとって、前脚(鳥の場合は翼になっていますが)を地面につかなくても立っていられようにしているのです。
  但し、進化の都合でほとんど直立してしまったペンギンなどは、頚と尾を除いて脊椎が癒合して1本の柱になっているそうです。 特殊なケースですね。

  次は我々人類の祖先と言われている、おさるさんを見てみましょう。

チンパンジー(左)とゴリラ(右)の骨格模の骨格模型

  やはり腰椎の前湾はありません。 おさるさんは完全に直立しておらず、手=前脚をつきながらでないと歩いたり走ったりできません。 ところが驚くなかれ、人間に芸を仕込まれて二足歩行を強いられているお猿さんは、後天的に腰椎の前湾ができているそうです。

  最後はアシモ君です。 アシモ君に腰椎があるかどうかは知りませんが、少なくとも腰部に前湾はありません。 アシモ君が歩くところは、みなさん映像でご覧になっておられると思いますが、まるでぎっくり腰で腰をかばいながら歩いているみたいですよね。 これは、膝と股関節でバランスをとっているからで、腰でバランスが取れないからです。

  以上のように、腰椎の前湾は人間だけが有する大きな特徴です。 ところで、腰椎の前湾ってどのように獲得したのでしょうか? 次回に続きます。


本欄の図は以下のホームページから借用しました。
    くじらさん:http://www.e-kujira.or.jp/
    いぬさん・ねこさん・おうまさん・にわとりさん:http://humanbody.jp/
    ペンギンさん:http://www.platinum-white.com/
    ティラノサウルスさん:http://www.jbook.co.jp/
    チンパンジーさん・ゴリラさん:米国ホームページより
    アシモくん:http://www.honda.co.jp/ASIMO/