ロコモティブ・シンドローム(1)

  「メタボリック・シンドローム」...略称「メタボ」は2008年度からの特定健診における腹囲測定によって話題になり、完全に市民権を得ました。 一方「ロコモティブ・シンドローム」...略称「ロコモ」は、その1年前の2007年に日本整形外科学会が新たに提唱しました。
  字面だけ見ると完全に「メタボ」を意識しているように思うのは私だけでしょうか(^ ^;

  ロコモティブ(locomotive)の意味を調べようと辞書を引くと、最初に書かれているのは「機関車(レールの上を列車を牽引するエンジン:オックスフォード英英辞典による)」という名詞です。 ここで蘊蓄を垂れるためにもう少し辞書をひも解いてみましょう。 オックスフォード英英辞典の2番目に書かれている意味は形容詞で「of locomotion」とあります。 そこで「loco(mo)-」で始まる単語を全部並べてみました。
  loco :機関車の俗称(愛称?)
  locomobile :自動機関車(というか自動車かなぁ?)
  locomotion :移動(能力)・旅行
  locomotor :locomotionする人や物
  locomotor ataxia:脊髄癆(梅毒の感染後に発症する脊髄後根や後索の変性)

  なんか最後は恐ろしそうな病気に行き当たってしまいました。 全然関係ないと思いますが、locoweed(ロコ草)という家畜に有毒なマメ科の植物があり、これを食べた家畜が locoism(ロコ病)という病気になることから、locoed(気の狂った)という slang(米国俗語)があるそうです。 これから派生して ’loco’ というと「狂人」という意味がアメリカではあるそうです。 また、これにかけて大麻のことを「ロコ」ということもあるそうです(ロコ草と大麻は同じものではありません)。

  だいぶ横道に逸れてしまいましたが、日本整形外科学会のホームページでは「Locomotive(ロコモティブ)は『運動の』の意味で…(略)…選びました」とあり、形容詞の意味で使っています。 それで日本語では「ロコモティブ・シンドローム」を「運動器症候群」と呼ばせています。
  この「ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)」、どこまで市民権を得ているのかちょっとネットで調べてみました。 残念ながらウィキペディアでは日本語も英語もまだ掲載はありません。 英語雑誌に「ロコモティブ・シンドローム」に関する日本人の投稿はあるようですが、まだこの言葉の広がりは日本国内に留まっているようです。

  一方、運動器症候群と名付けられたこの「運動器」、聞きなれない言葉ですがどういう意味があるのでしょうか?

運動器の10年

  世界保健機関(WHO)の「BONE AND JOINT DECADE 2000-2010」に呼応して、日本ではこれを「運動器の10年」として活動を行っています。 2000年〜2010年なので今年で終わりですね。 にもかかわらず、あまり知られていないということはちゃんと活動していたんでしょうかねぇ?
  それはさておき、「BONE AND JOINT DECADE 2000-2010」のホームページを見ると明確なゴールが設定されています。

Keep People moving
reduce the Burden and Cost of Musculo-skeletal Disorders
to individuals, Carers and Society

運動を維持することによって
筋肉や骨格の衰えに起因する
介護や社会そして自分自身の肉体的・経済的負担を減らす(彩の川訳)

そして運動器とは

  そして運動器とは、ここまで出てきた「bone(骨)」「joint(関節)」「muscle(筋肉)」「skeleton(骨格)」に靭帯・腱・神経を加えて、身体を動かしたり支えたりする器官の総称を指します。 自分の意思で動かすことができるのが運動器の特徴で、内臓を作る平滑筋や心臓の心筋、及びこれらを支配する自律神経は含みません。

  今回は「ロコモティブ・シンドローム」の「ロコ…」の意味で終わってしまいましたが、今シリーズは長丁場です。頑張ってお付き合いください。