ロコモティブ・シンドローム(3)

  前回、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)は、「運動器不安定症」の予備軍であると述べました。 この「運動器不安定症」という病名、あまり馴染みが無いと思いますので、まずはこれにもう少し補足説明します。

運動器不安定症(前回のつづき)

  運動器不安定症の診断基準は、以下のように定めらています。

ちょっと難しくなってしまいましたが、順番に見ていきましょう。
  最初の11の疾患の中には、脊柱管狭窄症・変形性膝関節症・側湾症・リウマチなども入っており、腰痛や膝痛の原因とされる疾患が幅広く含まれています。 次のランクJとかAとかいうのは要介護の判定基準で、ランクJ < ランクA < ランクB < ランクCの順で重度と定義されています。 ランクJは日常生活は屋内外ともほぼ自立できる状態、ランクAは屋内は自立できるが外出は介護を要する状態を言います。 「開眼片足起立時間」は文字通り目を開けた状態で片足で何秒間立ってられるかというものです。 「3m TUG」というのは椅子から立ち上がって3m先でUターンして再び椅子に腰掛けるまでの時間を計ります。


  運動器不安定症という病気を作ったのは、あなたは病気ですよと認識を持ってもらい、リハビリを積極的に受けることによって要介護の進行を食い止めようという目論見のようです。 要介護の進行を食い止めるのはもちろん大切ですが、要介護になる前に歯止めをかけることもたいへん重要です。 そのためにロコモティブ・シンドロームを作って、『あなたは要介護の予備軍ですよ』『何とかしないと要介護になっちゃいますよ』と警鐘を鳴らすことにしたのです。
  では何をもって『あなたは要介護の予備軍ですよ』と知らしめるのでしょうか?

  ここまでメタボと比較していろいろ見てきましたので、先ずはメタボの診断基準を見てみましょう。

図で描くと下のようになります。

  これに対してロコモの診断基準はすごくいい加減です。

図で示すと下のようになります。


日本臨床整形外科学会ホームページより)

最後の専門医の診察って何をやるのでしょうか? どうも骨粗鬆症や変形性関節症などの器質異常が無いか診断するみたいですが、正確なところは良く分かりません。 誰か受けたことのある方がおられましたら、是非教えてください。

  ここまで頑張ってメタボのように市民権を得ようと付いてきましたが、最後に息切れをして引き離されたようですね。
  しかし、健康を維持するうえで、運動器は内臓と同じくらい重要です。 これまで健康診断というと、内臓系の病気を躍起になって捜していました。 しかし、内臓に異常が無くても、運動器の異常で寝たきりになってしまえば決して健康とは言えません。 逆に、内臓の異常の方がまだ普通に歩いたり外出したりする生活を送れる分、程度が軽いと考えることもできます。 したがって、運動器の異常を早期に発見して治すことは、内臓の病気を早期に発見するのと同じくらい大切なのです。

  ここまで、メタボとロコモを対比させて紹介してきたのは実は意味があります。 というのは、内臓系の異常と運動系の異常というのは決して無関係ではないのです。 次回以降、いよいよ核芯に入って行きます。


※1 腹囲については見直す動きがあり、男性90cm、女性80cm以上とすべきという意見もあります。
※2 血圧と脂質は正式には「かつ/または」と書かれており、どっちなんじゃーと混乱してしまいそうな表現で定義されていますが、結局「または」の意味のようです。 きっと何も考えずに英語の「and/or」を訳したんでしょうね。