不思議な肩甲骨(1)

  「けんこうこつ」って聞くと「肩甲骨」ではなく「健康骨」っていう漢字が先に思い浮かんでしまうのは私だけでしょうか? でも、これってあながち的外れでもないのですよ。 肩甲骨の位置や動きって結構「健康」に関係あるんです。

  肩甲骨は文字通り肩にあって、カメの甲羅のように平べったい形をしています。(左図:Wikipediaより) そして重さ2kgと3kgとも言われる腕をたった一人で支えています。 「たった一人で」と書いたのは、肩甲骨は体幹(胴体)とは直接骨でつがっていないからです。 上半身の骨格さんに登場してもらいましょう。 肩甲骨につながっている骨だけにすると下図の右側のようになります。

  肩甲骨は鎖骨で胸の前面にある胸骨とつながっているだけです。 胸骨は背骨と肋骨でつながっていますが、正確には間に肋軟骨が入っていますので、胸骨自体もがっちりと体幹と固定されている訳ではありません。 また、鎖骨は右の写真のように体表からも確認できる骨ですが、それほど大きな骨ではありません。
  このように、肩甲骨は背中に固定されているように見えますが、骨格で支えられている訳ではないのです。 左上のいるクルクル回っている骸骨さんが斜め後ろになったときに見ると、肩甲骨が体幹(胴体)から浮いている様子が良く分かるかと思います。

  では肩甲骨は、どのようにしてあのように背中に張り付いていられるのでしょうか。 それは筋肉によって、上下・前後・左右から牽引されることで安定に位置を保っていられるからです。 肩甲骨を牽引している筋肉は、全部で6個あります。

あと、鎖骨下筋は鎖骨につながって鎖骨の位置を安定に保つ働きをしています。 もう1つ肩甲骨に直接つながっている肩甲舌骨筋というのがありますが、これは舌骨という骨を固定している筋肉で、肩甲骨を固定している筋肉ではないので、ここでは省きます。
  これら6つの筋肉がどちらの方向に肩甲骨を牽引しているか示したのが、下の図です。 右肩の肩甲骨を背中側から見ています。

  これを見ると分かるように、身体の外側に引っ張っているのは前鋸筋だけになります。 そのために前鋸筋が麻痺すると肩甲骨が中心側に移動してしまって、翼状肩甲という形の異常になります。
  それはさておき、重要なのは肩甲骨の位置はこれら6つの筋肉の力のバランスで決まるということです。 筋肉の均衡が正しくないと肩甲骨の位置がずれてしまい、そうすると当然その先につながっている腕の動きも正しくできなくなります。 腕が正確に動かせなければ、その先の指先の操作も正確にできません。
  これだけではありません。 肩甲骨は体幹に近いため、肩甲骨が正しい位置にないと体幹の運動にも支障が出ます。 肩甲骨が本来の正しい位置から偏っていると体軸に歪みが出ます。 体軸に歪みに出ると全身の様々な機能に悪影響が現れます。 これが、冒頭に述べた「肩甲骨」は「健康骨」という理由です。
  次回以降、この不思議な肩甲骨の動きをもう少し詳しく見ていきましょう。