「ためしてガッテン」の功罪(2)

骨盤とは?

骨盤   骨盤とは?と聞かれたときに、正確に説明できますか? 医療関係者や生体や運動に関心のある人以外は、漠然と「腰にある大きな骨」という程度の理解にとどまっているのではないでしょうか。

骨盤の性差

  骨盤とは寛骨と仙骨と尾骨からなる骨のかたまりで、恥骨結合と仙腸関節を含みます。 性差があり、男性の骨盤と女性の骨盤とは形が違うことは、よく知られています(上右図)。 寛骨は腸骨と坐骨と恥骨の3つの骨から構成され、14〜16歳で完全に癒合して一体になります。 恥骨結合は軟骨ですが、不動結合です。 また、仙腸関節は強靭な靭帯によって可動が著しく拘束されています。

骨盤靭帯   右図をご覧になれば分かるように、わずかに動ける可能性のある仙腸関節も靭帯でがっちり固められていますので、骨盤自体の形が変わることはありません。
  もしも骨盤の形が変わったとしたら、それは明らかに「骨折」です。

骨盤が歪むとは?

  では、「骨盤が歪む」というのはどういうことなのでしょうか? 日本語というのはときに曖昧で、字面通りの意味を取るとおかしな意味になってしまう言葉が多くあります。 「骨盤が歪む」というのも骨盤自体が歪むのではなく、正確に言うと「骨盤の位置や角度が正しい状態からずれている」という意味になります。
  骨盤自体の形は変わりませんが、骨盤の位置や角度は簡単に変わります。 これを骨盤ベルトで骨盤の形を変えられるなどと言い出したため、骨盤ダイエットは「ためしてガッテン」の恰好の餌食になってしまったわけです。

  骨盤の位置や角度を決めているのは筋肉です。 では、骨盤にはいくつ筋肉が付いているのでしょうか? ちょっと数えてみましょう。
  • 腕の筋肉---広背筋
  • 背中の筋肉---腰腸肋筋・胸最長筋・腰多裂筋
  • 腹筋群---腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋
  • お腹の深部---腸骨筋・腰方形筋
  • お尻の筋肉---大殿筋・中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋
  • 深層外旋六筋---梨状筋・上双子筋・下双子筋・内閉鎖筋・外閉鎖筋・大腿方形筋
  • 脚を上げる---大腿直筋・縫工筋
  • 脚を閉じる---長内転筋・短内転筋・大内転筋・薄筋・恥骨筋
  • 後ろに蹴る---大腿二頭筋(長頭)・半膜様筋・半腱様筋

  なんと全部で30種類もあります。 すべて右と左がありますから、合計で60本もの筋肉が付いていることになります。(注:骨盤内で臓器を支えている筋肉は除いています。)
  こんなにたくさんの筋肉が骨盤に付いているのですから、これらの筋肉の力のバランスが狂えば骨盤の位置や角度が簡単にずれることは容易に想像できるでしょう。

骨盤の位置と角度を整えればスリムになる?

  「腰痛と腰のくびれ」では、腰椎の前湾がしっかりできていると腰回りが細く見えることを述べました。 同じ理屈で骨盤の位置と角度が正しい状態になると背筋が伸び、ボテっとしていたお腹回りがすっきりします。 いわゆるポッコリお腹も引き締まります。
  骨盤の位置と角度を決めているのは、上述の筋肉の働きです。 骨盤が正しい位置と角度になったということは、上述の筋肉の伸び縮みが正しい状態になった結果です。 これらの筋肉のうち、外見上目立つ「背中の筋肉」「腹筋群」「お尻の筋肉」が正しい状態になったために、お腹周りがすっきりし、お尻もきゅっと持ち上がります。 したがって正確に言うと、骨盤の歪み(あえてこう表現しますね)がなくなるとスリムになるのではなく、筋肉が正常な状態になった結果としてスリムに見えるようにもなるし骨盤の歪みもなくなるということになります。

  骨盤ダイエットの理論は無茶苦茶でナンセンスなものですが、「ためしてガッテン」もスリムになろうと頑張っている人に冷や水を浴びせるだけでなく、ここまできちんと言ってくれるとたいしたものなんですけどねぇ。。。 単に否定するだけだと、どうすれいいのか視聴者を惑わせるだけです。
  骨盤ダイエットの理論の間違いを指摘したのは‘功'ですが、理論を正すところまで至らなかったのは‘罪'と言えるでしょう。(まだまだ続きます)