「ためしてガッテン」の功罪(3)

腰痛の85%が原因不明

  次に、昨年秋(2011年11月16日)に「驚異の回復!腰の痛み」というタイトルで放映された内容を紹介します。
  番組では『これまで腰痛の主原因だと言われていた椎間板ヘルニアが実は無関係だった』と立川志の輔が自慢げに語り、小野アナが『では原因は何だったんですか?』とお決まりのやりとりから始まりました。 どうせ原因は脊柱管狭窄症と言うんだろうなと思って続きを見ていました。 というのは「最近の腰痛事情」に書いたように、このところNHKは脊柱管狭窄症にご執心だったからです。
  ところが、見事に予想は裏切られ『85%は原因不明』と言うではありませんか! NHKがこんないい加減なこと言っていいのかぁ!?

  確かに腰痛で整形外科を受診しても、9割は異常が見つからないと言われて原因が良く分からないまま帰されます。
  ところが、原因不明のまま終わらせればいいものを、ためしてガッテンは何と驚きの理屈を展開し始めました。 (「理論」ではなく「理屈」です。)

腰痛の原因はストレス?

  ためしてガッテンのとんでもない理屈を紹介しましょう。 以下、ためしてガッテンのホームページからの転載です。

  様々な論文で、ストレスが高まると「腰痛」が増えることが指摘されていましたが、その理由は解明されていませんでした。 そこで、福島県立医科大学が、原因不明の腰痛患者の脳血流量を調べたところ、なんと7割の腰痛患者が、健康な人に比べて血流量、つまり脳の働きが低下していたのです。
  アメリカのノースウエスタン大学がさらに詳しく調べると、活動が特に低下しているのは「側坐核(そくざかく)」という部分であることが分かってきました。 「側坐核」は、痛み信号が脳に届くと、鎮痛物質を働かせる命令を出すと考えられています。 これによって、脳は大きな痛みを自動的におさえていたのです。 ところが、慢性的なストレスを受けると、側坐核の働きが低下。 鎮痛物質に命令がいかないので、痛みがおさえられず、激痛を感じてしまうのです。
  ストレスが痛みの原因を作るのではなく小さい痛みを強めて激痛を生み出すことが分かってきました。
[NHKためしてガッテン]

  もっともらしいことを言っているように聞こえますが、落ち着いてこの文章を何度も読んでみてください。 ためしてガッテンが言っているのは、こういうことです。

  腰痛患者にはもともと大きな痛みがあり、これを側坐核から出る鎮痛物質で小さい痛みに抑えていた。
      ↓
  ところが、ストレスがあると側坐核の働きが低下して鎮痛物質が減り痛みが抑えられなくなる。
      ↓
  したがって、ストレスが高まると腰痛が発症する。

  どうです、見事な三段論法ですね。 さらに驚くのは、福島県立医科大学ではこの理屈に則り、原因不明の腰痛患者に整形外科医・精神科医・社会福祉士などがチームで治療に取り組んでいるということです。 そして、福島県立医科大学の患者さんの中には、子犬を与えるとストレスが減って腰痛が回復したという例を紹介していました。

  よーく良く考えてみてください。 これは痛みを脳内鎮痛物質でごまかしているだけで、これを「治療」と言えるでしょうか? 子犬を与えられた患者さんは、この先もしも犬が死んだら、ストレスで激痛を発症することになります。
  最初の「大きな痛み」って一体何なんでしょう? こんなものがもともとあるんでしょうか? もしあるんだとしたら、それを取り除くことが本当の治療ではないですか?

腰痛の真の原因は?・・・はちょっと置いといて

  腰痛の原因が椎間板ヘルニアでも脊柱管狭窄症でもないことは、日本理学整体学会ではかなり以前から主張をしていました。 ちょっとこの話題は次回に譲って、少し脱線させてください。 腰痛の真の原因が気になって次回まで待てない方は、「腰痛のメカニズム」で予習しておいてくださいね。

痛みと鎮痛

  痛みとは身体からのSOSであり、痛みによって身体の損傷に気付かされ、痛みによって運動を制限されることで回復が早まると一般に考えられています。 一方で、必ずしもこのように身体にとって必要な痛みばかりではなく、不要な痛みもあることもだんだん分かってきています。
  鎮痛とは、文字通り痛みを鎮めることです。 これは薬のように外部から与えられるものだけでなく、身体の内部から発生するものもあります。 それが鎮痛作用を持った脳内物質で、多くの種類が発見されています。 代表的なものとしてはβエンドルフィンがあります。 名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。
  このような鎮痛物質がなぜ脳内から出るかというと、痛みをごまかしてでも動かないといけないときがあるからです。 例えば外敵から襲われたときに、痛いからと言って動かないと食べられてしまいます。 動物として生きていくために、緊急措置としてこのような機能が備わっているのです。 あくまで緊急措置ですから、これを常用化することは、重い病気など特別な場合を除いて身体に良いはずはありません。

  ストレスが腰痛の一因となることは否定しませんが、物事のある側面だけを強調して、言葉巧みに詐欺まがいの理屈でもって視聴者を騙そうとしていると言っても過言ではありません。 椎間板ヘルニアが腰痛の原因であるというこれまでの誤った考えを否定したのは、今回のためしてガッテンの‘功’ですが、それ以外の内容は全て‘罪’です。
  あと関係無いですが、NHKは全国ペット協会から感謝状くらいもらったんでしょうかねぇ。。。