腰痛のメカニズム(1)

  もし皆さんが腰痛の経験をお持ちなら、もしまさに今腰痛がおありなら、ちょっと確認してみてください。 何が(「どこが」ではなく「何が」)痛いですか? 背骨ですか? 筋肉ですか? 靭帯ですか? 神経ですか? 何が傷んでいるのか良く分らないというのが本当のところでしょう。 それが腰痛の治療を難しくしている要因ではないかと思います。
  腰痛で困ったときは整形外科へ行きますよね。 そうすると、たいていレントゲンやMRIを撮られるでしょう。 そこでヘルニアや分離症などの器質的な異常が発見されれば、それが原因だと断定されるでしょう。 しかし、例えばヘルニアがあっても必ずしも腰痛にはならないことは、ほとんどの整形外科医が認めるところです。 腰痛の原因は分からないというのが現在の医学の見解です。
  但し、腫瘍や腎臓疾患などで腰痛が出る場合もありますので、必要に応じて病院の検査はきちんと受けてください。 決して病院での検査の重要性を否定するものではないことを最初に言っておきます。 その上で、なぜ痛みを感じるのか、原因も含めてひとつずつ検証していきましょう。

  先ず腰椎を見てみましょう。 腰椎は椎骨と椎間板が積み重なっています。 これらはレントゲンやMRIで見ることができます。 椎骨の脱臼がすべり症、椎骨の一部が骨折しているのが分離症、椎体が太って神経の通る穴が小さくなっているのが脊柱管狭窄症、椎体に棘ができているのが変形性脊椎症、椎間板が圧迫されて飛び出しているのが椎間板ヘルニアと診断されます。
  でもちょっと待ってください。 椎骨というのは骨です。 骨は折れようが擦り減ろうが痛みは感じません。 もし痛ければ、折れた骨をボルトや針金で固定したり、髄内釘と呼ばれる金属棒を骨の中に通したりなどできる筈がありません。 骨折したときに痛みを感じるのは折れた骨が周りの組織を傷付けるからで、折れた骨を固定してやりさえすれば痛みは無くなります。 (これまでに5箇所骨を折っている私が経験から言っているので間違いありません!)
  さらに椎間板は、神経も血管も通っていないので、ひしゃげようが飛び出そうがこれも痛みは感じません。

  専門書も読物も、変形した腰椎(椎体や椎間板)が神経を圧迫して痛みを感じると書いています。 神経が直接傷めつけられるのですから、すごく痛そうですね。 でもこれもよく考えてください。 正座の状態では膝の裏で神経が圧迫されます。 このときどこが痛みますか? また肘の内側をぶつけたときどこが痺れますか? 神経というのは不思議なもので傷めつけられている所とは別のところに症状が出ます。
  これは脊髄でも同じです。 私は何回か注射で髄液を取られたことがあります。 腰から脊髄に針を刺すのですが、上手な先生にしていただくと痛みはほとんど感じません。 しかし、若い(敢えて「下手」とは言いません(^ ^;))先生だと何度も針を刺し直すので、すごい痛みが走ることがありました。 このときも痛むのは針を刺している腰ではなく、お尻や足先でした。
  逆に言うと、脚が痺れるとかお尻に痛みを感じるとかいう場合は、腰椎の異常を疑うことができます。 これらの痺れや痛みを伴わない場合は、たとえレントゲンやMRIで異常が見つかったとしても、整形外科医に原因を良く確認すべきだと思います。

  一方、腰痛の90%は、整形外科へ行っても異常が見つからないと言われています。 したがって、ほとんどの場合は湿布と痛み止めを出されて安静にしていなさいと言われて終わりです。 では、これらのケースは何が傷んでいるのでしょうか。 腰部の筋肉・筋膜・靭帯しかないと思うのですが、なぜか専門書も言葉を濁しています。 どうしてでしょうか?
  筋肉や靭帯は普通傷付くと腫れを伴います。 捻挫や肉離れが良い例ですよね。 しかし、腰痛のときに腰が腫れた人ってあまり聞きません。 腫れ以外に筋肉等の炎症を診断することができないために、お医者さんは原因を断定できないのではないかと思います。 (明確に分かるMRIの診断結果等に原因を求めちゃう訳ですね。)

  最初の問い「何が痛いのか?」の答は「腰部の筋肉・筋膜・靭帯」です(注1,2)。 では次に、なぜ腰の筋肉や靭帯は傷付き易いのか考えてみましょう。(つづく)


(注1):明確な病気のないほとんどの腰痛患者の場合です。 冒頭に述べたように病気が原因の場合もありますので、病院の診断はきちんと受けてくださいね。
(注2):ここでは敢えて「腱」を外しました。 「腱」は痛みを感じるか疑問だったからです。 例えばアキレス腱を切った人に聞きますと、後ろから棒で殴られたような衝撃を感じたが不思議と痛みは無かったと言います。 切った周りの組織が傷付きますので腫れや痛みはその後出てきますが、「腱」そのものは痛みを感じないのではないかなと思います。