腰痛のメカニズム(2)

  脊椎…脊柱とも言いますが、これはもともと「柱」ではなく「梁」だったのです。 横にして使っていたものを無理矢理立てたところから腰痛の歴史が始まりました。
  一般的に背骨と呼ばれる脊柱は、文字通り背中にあります。背中にあって内臓をぶら下げていました。 ところが人類は立ち上がったものですから、ぶら下げることはできません。そのため骨盤が発達し、そこで内臓を受け止めることになりました。 そして、背中にある脊柱で上体を直立状態に支えなければいけなくなりました。

  棒を立ててものを支えようとしたら普通真ん中に刺しますよね。 棒が重心を通ることによって、小さな力でバランスを取れるようにするためです。 ところが脊柱は背中にあった脊椎をそのまま立てただけですので、当然身体の真ん中ではなく背中側に片寄っています。 したがってそのままだと前にパタンと倒れてしまいますので、常に背中側に引っ張っていないといけません。 背中側に脊柱を引っ張っているのが一般に背筋と呼ばれる脊柱起立筋群です。 しかし、脊柱に張り付いた状態で脊柱を引っ張るには、すごい力が必要になります。 簡単に試算しても体幹部の体重の10倍程度の力が必要になりますので、200kgくらいの力で常に引っ張っていないといけないことになります。 仮りに筋肉が肥大して力が出せたとしても、これでは骨の方が堪ったものではありません。
  しかし自然の神秘というか立ち上がるための執念というか、何とか工夫するものですね。 脊柱を湾曲させてそこに筋肉の弦を張ったのです。 そうすることによって立つために必要な筋肉の力を可能な限り小さくしました。 さらに前面にある腹筋を発達させて胸骨と恥骨との間に筋肉の柱を作り補強しました。

  こうして何とか立ち上がることに成功したものの、もともと「梁」だったものを立てて「柱」にしただけなので構造設計上の無理があります。 背部の筋肉は常に緊張し、その反作用で腰部の脊椎(腰椎)は常に圧縮を受けています。 構造強度を補うための腹筋も、気を緩めると歳とともにすぐに衰えてしまいます。 そのため何気ない行動をとったときに、思わぬ災難=腰痛に会う羽目になるのです。 腰部の筋肉・筋膜・靭帯が傷付き易いのは、進化の過程で人類が選んだ無理な構造設計の「つけ」だと言えるでしょう。

  こうして、どうやって人類が立ちあがることができたかを見ると、しっかりと立つには「腰部の湾曲」が重要であることが分かったか思います。 「反り腰」は良くないと思っている方がおられると思いますが、腰の反りがあるから真っ直ぐ立っていられるのです。 丈夫な腰を作るにはしっかりした「腰の反り」を作ることが必要です。 しっかりした「腰の反り」ができれば姿勢も良くなり、身体全体の歪みも矯正されます(注)
  また腰痛にならないために腹筋を鍛えれば良いと思っている方も多いと思いますが、あくまで主役は背筋です。 腹筋を鍛えることは決して悪いことではありませんし、腹筋を鍛えることで拮抗筋である背筋も鍛えられますが、身体の構造をちゃんと理解した上でトレーニングしていただいた方が効果も上がると思います。

  次回は「腰痛」にならないように心掛けることを検証していきましょう。 もう少しお付き合いを。(つづく)


(注):「腰部の湾曲」と、腰に悪いと言われている「反り腰」はメカニズムが異なります。 これについては、次々回くらいに述べたいと思います。