ロコモティブ・シンドローム(おまけ)

  前回でロコモシリーズを終わるつもりでしたが、謀らずも理学療法ジャーナル4月号にロコモティブ・シンドローム特集が掲載されていたので、そこにあった情報を「おまけ」で紹介します。

ロコモって何人くらい?

  「ロコモティブ・シンドローム(2)」で、健康寿命を終わらせ要介護になる3大原因は「脳卒中」「運動器疾患」「高齢による衰弱」だと説明しましたが、運動器疾患が占める割合ってどのくらいなのでしょうか? 下図に厚生労働省の調査結果を示します。 要支援者のうち32.7%が、要介護者の17.5%が何らかの形で運動器に障害を負ったことが原因で要支援または要介護となったことが分かります。


支援・介護が必要となった主原因
(理学療法ジャーナル 第45巻第4号p.293 から)

  それでは要支援・要介護の予備軍であるロコモと診断される人はどのくらいになるのでしょうか? ロコモティブ・シンドロームであるという最終決定は、整形外科医が下します。 このとき整形外科医は何を診るかというというと、以下の3つの疾患に注目して検査をするようです。

日本のそれぞれの推定患者数は、変形性膝関節症が2,530万人、変形性腰椎症が3,790万人、骨粗鬆症が1,710万人だそうです。 そして、これら3疾患のうちいずれか1つでも有する患者数は4,700万人になるとのことです。

  論文ではこの結果から「ロコモの該当者は4,700万人」と言っていますが、日本人の人口は12,600万人ですので、何と37%がロコモになってしまいます。 ちょっとすごいと思いませんか!?
  国民の4割近くが既に要介護の予備軍だとしたら、その国はもうすぐ滅びてしまうでしょう。 なぜこんなことになってしまうのかというと、これまで何度も言ってきているように「運動器疾患=動きの妨げや痛みの原因」という単純な構図ではないということが見落とされているからです。
  ちなみにメタボリック・シンドロームは、該当者が約1,000万人、メタボ予備軍がさらに約1,000万人ということだそうです。

ロコチェックは有効か?

  ロコチェックというのはロコモティブ・シンドロームを自己診断する7つのチェック項目です。 これらの内容は客観的ではなく非常に感覚的であり、こんな曖昧な基準でいいの?と思いたくなります。 そこで、もう少し理論的にロコチェックの妥当性を検証した論文がありました。
  該当するチェック項目の数と、運動器疾患の有無や重症度、運動能力、転倒歴の有無との相関を調べ、いずれも相関ありとの結論を出しています。
  この結果からは、ロコチェックは有効だということになります。 しかし、ロコチェックの7項目は特別なものではなく、日常生活動作--特に歩行が問題なく行えるかどうかを自己診断するものです。 元気に歩くことができればまだまだ大丈夫ですが、歩けなくなってくると危ないですよっていうことですね。

そして歩くためには何が必要か?

  ロコモにならないようにするためには筋肉を鍛えなさい、というのがこれまでの整形外科の対応でした。 一方で、最低限の筋力は必要ですが、日本理学整体学会では筋肉を鍛えることの有効性についてはずっと疑問を投げ掛け続けてきました。
  理学療法ジャーナルの特集の中で、歩行能力に必要なものは筋力+バランス能力だという記述がありました。 また、身体アライメントの悪化は立位や歩行バランスの悪化を助長するとありました。
  自分の体重さえ支えるだけの筋力があれば、あとはバランス能力がしっかりしていれば普通に歩くことができることは容易に想像できるし理解できると思います。 筋肉の伸縮が正しく機能して前後左右の筋力が拮抗することにより、バランスを取ることができます。 そして筋肉の伸縮をコントロールしているのは神経ですから、神経の働きを正常化させることによってバランス能力が向上します。 一方、神経の働きの異常は身体アライメントの悪化--すなわち身体の歪みとして現れます。 逆に、歪みを見つけて身体の形を整えることで神経・筋肉の働きを正常化することができます。 これが正に理学整体の根幹を成す理論であり、われわれはそれを実現するための手技を日夜磨いています。