眠りの科学(1)

2014年4月13日

 今年の冬は寒さが厳しく各地で大雪に見舞われましたが、4月も半ばに入りようやく暖かくなってきました。
 『春眠暁を覚えず  処処啼鳥を聞く 夜来風雨の声 花落つること知る多少ぞ』というのは、 中国の唐の時代の詩人、孟浩然(もう こうねん)が詠んだ「春曉(しゅんぎょう)」という漢詩です。
 冒頭の「春眠暁を覚えず」は「春は気持ちよいので日が昇ったのも知らずに眠っていた」と解釈されていますが、どこにも「気持ち良いので」とは書かれていません。 したがって、この解釈は誤りだという説もありますが、ポカポカと暖かい陽気が眠気を誘うことは万人が頷くところではないかと思います。

 ・・・ということで、前置きが長くなってしまいましたが、今回は「眠り」のお話です。 我々は人生の約1/3を眠って過ごします。 人生80年とすると、およそ27年間も眠っている計算になります。

なぜ眠るのか?

 眠るのは人間だけではありません。 哺乳類は例外なく眠りますし、渡り鳥も飛びながら眠っているそうです。 しかし、なぜ眠るのかというのははっきり分かっていないそうです。
 反対に眠らないとどうなるのかは、幾つか研究例があるようです。 動物実験では眠らせずにいると、2週間後に感染症などにかかって死んでしまうそうです。 人間も寝ないでいると記憶力や判断力が鈍り、行動の反応速度や正確性も低下します。 そして遂には身体に変調を来たし、妄想を見るようになるそうです。

どのくらい眠るのが良いのか?

 それではたっぷり眠れば健康になれるのでしょうか? ここに面白い研究報告があります。  下図は、40歳〜79歳の日本人を対象としたコホート研究の結果です。 コホート研究というのは、疫学研究の中で特定の集団(コホート)を対象として長期間をかけて追跡調査することで、生活習慣と病気の関連を解明していく調査手法のことです。 これを見ると、睡眠不足も寝過ぎも身体にとって良くなく、7時間前後が最も良いことが分かります。 このグラフの「死亡の危険率」というのは、脳卒中と心血管病だそうです。


Tamakoshi, A. et.al., Sleep, 27-1 (2004) 51-54 より

 また、18歳以上を対象とした調査でも睡眠時間7時間の群が死亡率が一番低く、これより長くても短くても冠動脈疾患の発症率が2倍前後高くなるという結果が得られたそうです。

なぜ眠くなるのか?

 人が眠くなるのは、3つのメカニズムがあるそうです。

 一つ目は体内時計。 体内時計は明るい光によって調節されるそうです。 したがって、太陽が昇るとともに起き、夜暗くなると眠くなるのは体内時計のおかげです。
 しかし、人間は意図的にこの体内時計の周期を変えることができるそうです。 自分の生活スケジュールに合わせて、夜中起きて昼間寝るというリズムを無理矢理作ることができるのです。

 二つ目が恒常性調節(睡眠系)というものです。 睡眠不足が続くと、いくら昼間強い光を浴びても眠くなってきます。 これが睡眠系の働きです。

 三つ目が情動調節(覚醒系)というもの。 危険なときや興奮しているときに眠気が飛んでしまうのは、この働きのせいです。