昨年11月に日本整形外科学会と日本腰痛学会が監修した「腰痛診療ガイドライン2012」が発行されました。
昨年の12月から今年の3月にかけて各新聞紙上や健康雑誌などで紹介されましたので、ご存知の方もおられると思います。
その前の「腰痛診療ガイドライン」は、2001年発行でした。
このニュースを聞き、二つ驚きました。
一つは、11年間もガイドラインが見直されてなかったのかぁ!という点。
もう一つは、「日本腰痛学会」なんてものがあったんだぁ!という点です。
このあと何回かに分けて、新しい「腰痛診療ガイドライン」の内容の紹介と中身の検証をしていきたいと思います。
医療関係者以外には馴染みがないと思いますので、まず「診療ガイドライン」って何?ということを簡単に説明したいと思います。
「ガイドライン」とは日本語で「手引き」のことです。
つまり「診療の手引き」のことで、医者が患者を診察するときの手引き書です。
いろんな病気に対してそれぞれ「診療ガイドライン」が発行されており、基本的に一つの疾患に一つの診療ガイドラインがあります。
しかし、その実態は・・・
最後の「優秀な医者」というのはほんの一握りの方々です。 したがって、我々がかかる医者のほとんどは「普通の医者」ということになりますので、やはり診療ガイドラインの中身は一応知っておいた方が良さそうです。
「エビデンス」という言葉も、最近はいろんなところで使われてはいますが、あまり馴染みがないかもしれません。
エビデンス(evidence)とは日本語で「証拠」という意味ですが、医療でいうエビデンスとは単なる証拠ではなく「科学的証拠」になります。
例えば「腰痛には安静が必要である」というとき、「多くの人が安静にしていたら腰痛が改善した」というのはエビデンスにはなりません。
腰痛患者を「安静群」と「活動群」とに無作為に分けて、統計学に基づいて有意な差があるかどうかを検証して初めてエビデンスとなります。
少し昔の話になりますが、「患者よ、がんと闘うな」(文芸春秋,1996)の著者 近藤誠医師は、その著書でエビデンスの不確かな手術・検査・投薬を繰り返す癌治療に警鐘を鳴らしました。
彼は、エビデンスを確かなものにするためには「くじ引きテスト」が必要だと主張しています。
つまり「無作為に」検証するためには、医師や患者の思惑が入らないくじ引きで、治療方法を選択しろというわけです。
くじ引きで治療方針を決められる患者は、たまったものではありませんが、本当はそこまでしないといけないのです。
一方「統計学的に」というのも、難しい面があります。
学会の報告などでは有意水準5%が良く使われますが、実はこの5%という数字には科学的な根拠は全くないのです。
「科学的証拠」と言いながら、細かく見ると科学的でないものが混ざっていたりします。
このように、エビデンスを揃えるのは非常にたいへんで難しい作業なのです。
前々回のシリーズでも書きましたが、理学整体を本当に信じてもらうには、ここまでやらないといけないのですが...たいへんだ〜(汗)
整形外科学会でも前回の2001年版の腰痛診療ガイドラインを発行した直後に「科学的根拠に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究」を開始しました。
(税金でね(-_-;))
でも、いきなり今回のガイドラインの前文でダメ出しを喰らっています。
そこで再度「腰痛診療ガイドライン策定委員会」なるものを作って、文献検索によってエビデンスの高いガイドラインを作ったとあります。
ダメ出しを喰らった「科学的根拠に基づいた・・・」の報告書は、医療情報サービス Minds(マインズ)のホームページで見ることができますので、興味のある人はどうぞ。
次回は、新しい腰痛診療ガイドラインがエビデンスによってどうなったかを紹介します。