腰痛診療ガイドライン2012ではエビデンスレベルと推奨グレードを以下のように定義し、これにしたがって有効性を議論しています。
各セクションの冒頭に「要約」があり、そこで推奨グレードが使われています。 ところが、これがどうにも分かりづらい。 例えば、以下の説明を見てください。
「X線撮影を行うことは必要でない」ことが強い根拠に基づいている(Grade A)のですから、X線は不要ということになります。 それでは、次はどうでしょうか?
[安静は有効な治療方法とは言えない」というのは否定する根拠がある(Grade D)ということですから、安静は有効な治療法ということになります。
ところが、解説を読むと安静にした方が活動性維持より良くなかったという報告と、差がなかったという報告があると書かれていて、まったく反対です。
すべてがこんな調子で、Grade B や Grade C に至っては、肯定しているのか否定しているのか全然分からんぞ!というものばかりです。
本の出来が悪いだけなら問題ないのですが、新聞雑誌のほとんどは、推奨グレードを設定したことがさも画期的であるかのように報道し注1、これらの要約に基づいた内容を記述しているものですから困ったものです。
そこで、エビデンスレベルと解説の記述をもとに、本の構成に沿って忠実に整理し直すことにしました注2。
その上で、ガイドラインの内容に対する検証(私の見解と意見)を付けました。
痛みの部位(筋肉か関節か靭帯かなど)については、やっぱり触れないんですね。。。
項 目 | 腰痛危険因子・予後予測因子 | |
---|---|---|
因子となる | 関係ない | |
体幹筋力 | なし | 1件[Level I(1)] |
肥満・体格 | なし | 5件 [Level I(1),III(3),VII(1)] |
運動不足 | 1件[Level III(1)] | なし |
重労働 | 7件[Level III(6),IV(1)] | なし |
心理社会的因子 うつ病 | 11件 [Level I(4),III(5),IV(1),VI(1)] | 1件[Level I(1)] |
喫煙 | 6件[Level III(5),IV(1)] | 1件[Level VII(1)] |
筋力や肥満が腰痛と直接関係ないのは、これまで言ってきた通りで、主張が正しいことが立証されましたね。 一方で、運動不足が腰痛の原因になると報告されていますが、重労働も腰痛の原因になるということは、まさに「過ぎたるは及ばざるが如し」ですね。
ここで注目したいのは、心理社会的因子が腰痛と大いに関係ありとされている点です。
「ストレスが腰痛の原因」と言わしめている根拠です。
しかし、これまで何度も述べているように、心理社会的因子(ストレス)は腰痛の直接原因には絶対に成り得ません。
心理社会的因子によって身体に物理的な変化が起きるのは確かです。
しかし、その物理的変化が必ずしも腰痛となって現れる訳ではなく、内臓疾患となる場合もあれば頭痛や他の病気となって現れることもあります。
ものごとには必ず因果関係があり、腰痛となる場合の身体の物理的変化があるはずです。
そこを追求せずに心理社会的因子が腰痛の原因だというのは、「風が吹いて桶屋が儲かる」理屈を脱していません。
検査項目 | 有効 | 有効でない |
---|---|---|
単純X線 | 4件[Level I(1),III(1),VI(2)] | 5件[Level II(4),VII(1)] |
MRI | 9件 [Level I(1),II(6),III(1),VI(1)] | 8件 [Level I(1),II(1),III(5),VII(1)] |
椎間板造影 | 3件[Level I(3)] | 5件[Level III(4),VII(1)] |
筋電図検査 | 1件[Level VII(1)] | 1件[Level VII(1)] |
画像診断が有効だとするエビデンスがこれだけあるにもかかわらず、解説で「全例に画像検査を行うことは推奨しない」と言っているのは、検査の結果と症例がほとんど一致しないことが整形外科の中でもようやく認識されてきたからです。
腰痛で医者に行ったときに、まずX線やMRIを撮りましょうと言われたら、そこはヤブだということです。
ヘルニアや脊柱管狭窄症を捜すために画像検査をするのは全くの無駄だということを知っておいてください。
一方で、腫瘍や内臓疾患が原因で腰痛になることがありますので、そのときは画像検査が威力を発揮します。
ただし、このときでも単純X線では無効です注3。
次回は「第4章 治療」「第5章 予防」と続きます。